こんな本を読みました。
旅人の夜の歌 ゲーテとワイマル 小塩 節 著
ゲーテに関しては以前のブログや「ゲーテの家」の回でも触れました。
本書は主に4つの要素からなっていて、
①ゲーテに関する歴史的記述
②ワイマールなどの土地を訪れた際の体験、筆者の懐述
③詩解釈
④ブーヘンヴァルト強制収容所に関すること
という盛りだくさんな内容になっています。
峯々に 憩いあり
さて、早速ゲーテの「旅人の夜の歌 Wanderers Nachtlied」を引用してみます。
Über allen Gipfeln
Ist Ruh,
In allen Wipfeln
Spürest du
Kaum einen Hauch;
Die Vögelein schweigen im Walde.
Warte nur, balde
Ruhest du auch.
(日本語訳)
峯々に
憩いあり
梢を渡る
そよ風の
跡もさだかには見えず
小鳥は森に黙(もだ)しむ
待て しばし
汝(なれ)もまた 憩わん
小塩節(2012) 旅人の夜の歌 ゲーテとワイマル 岩波書店
Wanderers Nachtliedは2作ありますが、こちらは2作目。
比較的自由なリズムですが、まるで俳句のように感じますね。
しかし面白いのは、筆者の解釈。
第二の「人間」規定。それは終わりの「待て」の一語に込められている。ここには待つことのできない人間がいる。(中略)
「待てない」旅人=自分に、「待て」と命じている。この「待て」が鍵だ。
小塩節(2012) 旅人の夜の歌 ゲーテとワイマル 岩波書店
ここが日本の俳句や日本人的自然観との大きな違いで、
人間の描写があり、自然と人間を対立するものとして描いています。
なるほど、どうりでこの詩からは、
地を踏みしめる旅人の力強さ、意志の強さを感じます。
これはゲーテに限らずヨーロッパの芸術を日本人が理解する際に重要なテーマだと思います。
ブーヘンヴァルト
特に筆者が思いを込めて書いているのが
後半の「ブーヘンヴァルト強制収容所 Konzentrationslager Buchenwald 」。
1937年、ワイマール北の丘の向こう(市の中心部からは見えない)にナチスが作った強制収容所。
総勢238,000人が収容され、56,000人が虐殺されました。
この地は本来「エッタースベルク Ettersberg」という地名で、若きゲーテが
いわゆる「第1の旅人の夜の歌(おんみ、天より来たり)」を歌った場所です。
絶えず衝動にかられ、心の平安を求めてやまない青年の見た美しい景色。
そして、
同じ人間が生み出した、ブーヘンヴァルト時代のおぞましい行為。
そのような二面性を持った土地であり、
人は常にこの二面性を背負いながら生きていかなければならない、
ということを強く意識させられます。
まとめ
今ワイマールに住んでいるので、登場する地名も知っていて
親近感がわいたというのはもちろんあります。
しかし、それだけではありません。
ただの多くの詩の中の1つであるかもしれない「旅人の夜の歌」。
それでもゲーテの人間性や当時の状況を理解し、
知ったうえで改めて詩を読むと、
これほど人間の本質を歌っている詩だったとは!
という感動を覚えました。
この詩が作られたイルメナウにはまだ行ったことがないので、
行ったら写真とともに報告しますね。
最後にシューベルトの作曲を貼っておきます。(リンク切れてたらすみません)
Hans Hotter – Schubert: Wanderers Nachtlied II D 768
おわり
伊藤 亘希(いとう こうき)
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